SAPIXに通わせている親として、読まずにはいられなかった一冊
今日は、おおたとしまさ氏の『ルポ 塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』を読んだ。
2016年に幻冬舎新書から出版された本である。
タイトルからして、なかなか刺激的である。
「塾歴社会」。
学歴社会という言葉は聞き慣れているが、塾歴社会とは何だろうか。
実は我が家の息子も、小学4年生からSAPIXに通っている。
現在は小学6年生。中学受験本番まで残り約4か月となり、週末も含めて受験勉強中心の生活を送っている。
SAPIXの通常授業に加え、SS特訓、さらにはNN志望校別コースまで受講しているのだから、我が家も相当な受験家庭である。
そんな父親が「SAPIXの正体」などという副題を見たら、読まないわけにはいかない。
しかも、もう一つの主役が「鉄緑会」である。
名前は知っていたものの、自分にとってはどこか遠い世界の塾だった。
ところが、この本を読むと、中学受験と大学受験が一本の線でつながっていることが見えてくる。
中学受験が終わったら、次の受験が始まる。
そんな世界があるらしい。
『ルポ 塾歴社会』とはどんな本なのか
まずは本書の基本情報を整理しておこう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | ルポ 塾歴社会 |
| 副題 | 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体 |
| 著者 | おおたとしまさ |
| 出版社 | 幻冬舎 |
| 発売日 | 2016年1月29日 |
| ページ数 | 208ページ |
| ジャンル | 教育・中学受験・大学受験 |
本書が取り上げるのは、日本の難関大学を目指す受験生を支えてきた二つの進学塾である。
一つは、中学受験のSAPIX。
もう一つは、東大などの難関大学への進学を目指す中高生が通う鉄緑会である。
本書は、出身者や元講師への取材を通じて、二つの塾の教育システムや、そこから生まれる社会構造を描いている。
単に「SAPIXはすごい」「鉄緑会はすごい」と紹介する本ではない。
なぜ日本では、これほどまでに塾が重要な存在になったのか。
その背景まで踏み込んでいるところが面白かった。
なお、本書の統計や塾の制度は刊行当時のものである。現在の合格実績や制度とは異なる可能性がある点には注意したい。
SAPIXから鉄緑会、そして東大へ
本書が描くのは、ある意味で日本のエリート教育の王道ともいえるルートである。
小学4年生ごろからSAPIXに通い、開成や筑波大学附属駒場などの難関中学校に合格する。
そして中学進学後は、鉄緑会に通って大学受験の準備を進める。
最終的には東京大学、さらには理科三類などを目指していく。
もちろん、すべてのSAPIX生がこのルートをたどるわけではない。
しかし、本書を読むと、一部の最難関校を中心として、中学受験と大学受験の塾が密接につながっている様子が見えてくる。
我が家もSAPIXに通っているだけに、なかなか興味深い話であった。
ただし、同じSAPIXでも、我が家の現実は少し違う。
毎日のように算数の問題と格闘し、過去問の点数に一喜一憂する。
最近も第一志望校の過去問に挑戦したものの、なかなか思うような点数が取れない。
SAPIXに通っているからといって、誰もがエリート街道を突き進んでいるわけではないのである。
むしろ我が家の場合は、目の前の中学受験を乗り越えることで精いっぱいだ。
それだけに、本書に登場する世界には、驚きとともに少し距離も感じた。
そもそも鉄緑会とは何なのか
今回の読書で、個人的に興味深かったのが鉄緑会の存在である。
鉄緑会とは、東京大学などの難関大学を目指す中高生向けの進学塾である。
本書では、特定の難関中高一貫校を対象とした指定校制度や、大学受験を見据えた高度な学習システムなどが紹介されている。
SAPIXが中学受験のための塾であるのに対し、鉄緑会はその先の大学受験を担う存在というわけだ。
本書刊行当時のデータとして、東大理科三類合格者の6割以上が鉄緑会出身であることも紹介されている。
なかなかすごい数字である。
もっとも、これは2016年刊行の本で紹介された数字であり、現在の合格者比率を示すものではない。
それにしても、難関中学校に入学したあと、すぐに大学受験の準備を始めるという世界があることには驚かされる。
中学受験を終えたら、しばらくは勉強から解放される。
そんなイメージを持っていたのだが、どうやら必ずしもそうではないらしい。
むしろ、ここからが本番という家庭もあるのだろう。
我が家の息子は第一志望校に合格できるかどうかで必死なのに、世の中にはその先の大学受験まで見据えて走り続ける子どもたちがいる。
受験の世界は奥深い。
なぜSAPIXはこれほど強いのか
本書では、SAPIXが難関中学受験の世界で存在感を高めていった背景についても紹介されている。
その歴史を知ることができるのも面白いところである。
SAPIXに通わせている親としては、日々の授業や教材のことはよく分かる。
しかし、塾全体の歴史や教育ビジネスとしての発展については、意外と知らないものだ。
実際に息子を通わせて感じるのは、SAPIXの教材やカリキュラムは本当によくできているということである。
毎週、新しい単元を学び、演習を重ね、テストで理解度を確認する。
さらにクラス昇降という仕組みまである。
子どもの学力を引き上げるためのシステムとしては、非常に合理的だと思う。
一方で、親もなかなか大変である。
教材はどんどん増えていくし、復習が追いつかなければ、あっという間に次の単元がやってくる。
我が家も小4から積み上がった教材の山を見るたびに、よくここまで勉強してきたものだと感心する。
そして、ときどき思う。
この仕組みを最大限に活用できる子どもは、いったいどれくらいいるのだろうか。
優秀な教材やカリキュラムがあることと、すべての子どもに最適であることは、必ずしも同じではない。
ここは中学受験を経験する親として、考えておきたいところである。
学校は何のために存在するのか
今回の読書で、特に考えさせられたのが学校と塾の関係である。
例えば、中学受験の世界では、学校ごとにさまざまな校風がある。
自由な学校もあれば、面倒見のよい学校もある。
部活動が盛んな学校もあれば、大学受験指導に力を入れている学校もある。
ところが、受験勉強は塾が引き受けるという仕組みが成立すると、学校の役割も変わってくる。
学校は必ずしも大学受験だけを目的にする必要がなくなる。
その分、部活動や学校行事、探究活動などに力を入れられる可能性がある。
本書の著者も、学校と塾の役割分担について論じている。
これを読んで、最近の我が家の志望校選びを思い出した。
我が家は現在、第一志望の早稲田大学高等学院中学部を中心に、さまざまな学校を検討している。
学校説明会や文化祭にも足を運んできた。
その中で、息子が気に入る学校には、ある程度共通点があることが分かってきた。
どうやら、自主性を重んじる校風が好きらしい。
親としても、その感覚は大切にしたいと思っている。
大学の合格実績や偏差値だけで学校を選ぶのではなく、実際に6年間を過ごす場所として、息子に合っているかを考える。
中学受験の目的は、偏差値の高い学校に入ることだけではない。
学校で何を学び、どんな経験をして、どう成長していくのか。
塾歴社会という話から、改めて学校選びの原点に戻ってきた気がした。
中学受験が終わっても、受験は終わらない?
さて、ここで少し我が家の話をしたい。
現在、息子はSAPIXに加え、SS特訓やNN志望校別コースにも参加している。
さらに算数の個別指導も利用している。
小6の受験生としては、なかなかのフルコースである。
当然ながら、費用も相応にかかる。
平日の夜も週末も、ほとんど勉強中心の生活だ。
それでも、第一志望校への合格を目指して頑張っている息子を見れば、親としてはできる限り応援したい。
ただ、本書を読んで、ふと考えた。
もし中学受験が終わったら、次はどうするのだろうか。
また塾に通うのだろうか。
大学受験に向けて、さらに6年間走り続けるのだろうか。
中学受験のために小4から3年間。
中高一貫校に入ってから大学受験まで6年間。
合計すると9年間である。
なかなか壮大なプロジェクトだ。
もちろん、勉強すること自体は悪いことではない。
むしろ勉強する習慣が身につくことは、将来の大きな財産になると思う。
ただし、親がどこまで先回りして道を敷くべきなのかについては、少し考えてしまう。
中学受験が終わったら、息子には部活動も楽しんでほしい。
友達と遊んでほしい。
できれば、勉強以外にも夢中になれるものを見つけてほしい。
まあ、実際に中学生になってみたら、また別の悩みが出てくるのだろうが。
親が敷いたレールを走ることが、本当に幸せなのか
本書の後半では、塾歴社会がもたらす光と闇について考察されている。
ここが個人的には、最も考えさせられる部分だった。
SAPIXに通い、難関中学校に入り、鉄緑会に通い、東京大学を目指す。
このルートが子ども自身の望んだものであれば、何も問題はないと思う。
明確な目標を持ち、その目標に向かって努力できることは素晴らしい。
しかし、それが親の期待によって作られたレールだった場合はどうだろうか。
子どもは本当に、自分の意思で走っているのだろうか。
これは決して他人事ではない。
我が家だって、息子の中学受験に相当な時間とお金を費やしている。
第一志望校の選定、塾の選択、過去問の準備、学習計画。
親が関与している部分は非常に大きい。
そう考えると、我が家も十分に塾歴社会の中にいる。
ただ、一つだけ意識していることがある。
最終的には、息子自身が行きたいと思う学校を目指してほしい。
親の役割は、そのための選択肢を増やし、必要なサポートをすることだと思っている。
もちろん、実際には親も口を出す。
過去問の点数が悪ければ、算数の復習を促す。
勉強していなければ、勉強するように言う。
理想どおりにいかないのが中学受験である。
それでも、親が目指すべきゴールを見失わないことは大切なのだろう。
仕事でも感じる「最短距離だけが正解ではない」ということ
本書を読みながら、仕事にも通じる部分があると感じた。
私は普段、会社でエンジニアのマネジメントをしている。
チームメンバーの成長やキャリアについて考える機会も多い。
その中で感じるのは、必ずしも最短距離で昇進した人だけが、長期的に活躍するわけではないということだ。
さまざまな部署を経験した人。
異なる分野に挑戦した人。
一度失敗して、そこから学んできた人。
そうした経験が、後になって大きな強みになることもある。
本書でも、効率を追求する社会の中で、回り道や遊びといった経験の価値が見落とされていないかという問題が提起されている。
これは、なかなか考えさせられる。
中学受験も同じなのかもしれない。
最短距離で難関大学に進学することが、必ずしも人生全体の最適解とは限らない。
中学生や高校生のうちに、何かに夢中になった経験。
友達と過ごした時間。
部活動で努力した経験。
そうしたものも、将来の人生にとって重要な財産になるはずだ。
もちろん、勉強も大事である。
結局はバランスなのだろう。
それでも、我が家は中学受験を続ける
さて、ここまで塾歴社会についていろいろ考えてきた。
では、我が家はどうするのか。
答えは簡単である。
明日も息子は勉強する。
第一志望校に向けて過去問を解き、苦手な単元を復習する。
親も引き続き伴走する。
塾歴社会という言葉を知ったからといって、突然SAPIXをやめるわけではない。
そもそも、ここまで頑張ってきたのだから、最後までやり切ってほしいと思っている。
ただし、今回の読書を通じて、中学受験の先にある世界について考える機会を得られたことはよかった。
中学受験は、人生のゴールではない。
そして、第一志望校に合格することだけが成功でもない。
息子に合った学校に進み、そこで充実した6年間を過ごしてくれれば、親としてはうれしい。
その先に大学受験が待っているとしても、そこからは本人の意思も尊重していきたい。
もっとも、あと4か月で中学受験本番を迎える我が家に、そんな先のことを考えている余裕があるのかという問題はある。
今週末も過去問が待っている。
まずは目の前の算数を何とかしなければ。
塾歴社会の話も面白いが、我が家は今日も目の前の受験問題と格闘するのである。
『ルポ 塾歴社会』はこんな人に読んでほしい
最後に、本書を読んでほしいと思った人を挙げておく。
- SAPIXに子どもを通わせている保護者
- 中学受験の先にある大学受験について考えたい人
- 鉄緑会がどのような塾なのか興味がある人
- 偏差値や進学実績だけではない学校選びを考えたい人
- 子どもの教育における親の役割を考えたい人
本書は2016年の刊行であるため、最新の塾事情を知るための本としては注意が必要だ。
しかし、学校と塾の関係や、教育における効率と競争の問題について考えるには、今でも興味深い一冊だと思う。
特にSAPIXに通わせている親なら、身近な話として読める部分が多いのではないだろうか。
我が家のように、まさに中学受験の真っただ中にいる家庭にとっては、少し先の世界を知るきっかけにもなる。
受験勉強に追われる毎日だからこそ、こうした本を読んで、親自身も教育について考えてみるのは悪くない。
さて、明日も頑張ろう。

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